2009年バレンタインSS、死ぬほどギリギリで書くことが出来ました。小説を乗せるサイトを始めて7年経ってて、まともなバレンタインSSの書き下ろしが初めてっていったい……な管理人ですみません(汗
ずっと体調崩してたんですが、本日mixiに、「バレンタインソング、女子の間では『チョコレイト・ディスコ』が定番に」という見出しのニュースがあがったのをマイミクさんのところで発見しまして、これはやらなきゃ! と。
4800字近くあるようなのを頑張って3時間くらいでなんとか書いてみました。やろうと思えばコピ本1冊つくれるかも(汗
もとからキャラ多いなと思ってましたが、予定外のヒトが1人増えました(笑)。思ったより書くことが多くて参りました。おまけにわかりにくくなってると思われます。
あの歌を私流に遣うとこの手段なのです。
想像通りなかなか難しかったです。
出羽閉じますね。
「材料は書き出してきた?」
「うん」
バレンタインデイ向けの、手作りチョコ材料売り場に今から突入する中学生姉妹を見て、僕らはプリペイド型携帯にくっついた状態で、
『うはー、すごい人混みだ』
『はぐれないように祈ろうぜ』
『まさしく。祈るしかないな』
とびくびくする。
いきなりなにが始まったのかとギョッとしてらっしゃる皆さま、どうもはじめまして。僕らはいわゆる「ケータイストラップ」というヤツでございます。
同じ作者で「ぬいぐるみは見た!」というシリーズが始まってずいぶん長いこと経つようですが、僕らケータイストラップが語り手となるのは初めてらしいです。
僕は妹の有村小夜ちゃん(中学1年生)の電話にくっついている熊です。名前はありません。真美ちゃんのストラップからは「ピンクさん」と呼ばれてます(笑)。
はい次よろしく(笑。テレビで中継カメラが切り替わるのを想像してくださいな)。
はいよピンクさん(笑)。
僕は姉の有村真美ちゃん(中学3年生)の電話にくっついているパンダです。僕もこれといって名前をつけてもらってないので、小夜ちゃんのストラップとはお互いのご主人の好きな色で呼び合ってます(笑)。「青さん」と呼ばれてます(笑)。
以後ご記憶よろしくお願いします。
ややっ。
有村姉妹、売り場に突入していきました。
17時30分。姉妹も僕らもお互いの姿を無事に見つけ出して、小夜ちゃんが、2人分の荷物を一手に引き受けた。小夜ちゃんは、13歳にしては身長が高いがかなり華奢なので、学校の鞄も合わせて持っている分、ちょっと心配になりもするけども。
『おお、よくぞご無事で』『いやまったく』という会話を、僕らストラップ同士も交わす(笑)。
「じゃ、荷物うちまでよろしくね」
「うん、明後日一緒につくろうね」
ヒラヒラと手を振って、反対方向に歩き出す2人。
『あ、じゃーな青さん』
『おお。おーおー、ニッコニコしちゃって、うちのご主人は』
『そこまで努力が楽しいなら、きっとサクラがサクでしょ』
『まったくだ』
真美ちゃんは高校受験をするので、塾に向かったのだ。受験間近の最後の見直しの段階なのだろう。
勝手知ったる建物の中。似たような制服の群れを掻き分けていくわがご主人。
「うす有村」
あ。
ご主人の心臓が、ひとつ派手に鐘を打った。
「こんばんは、川崎くん」
真美ちゃんがさっきから(塾なんてところへ行くのに)ニッコニコしているのは、塾で同じ授業を受けているこの男の子が好きだからだった。
「今日ちょっと遅くねえ?」
「そお?」
むっ、ちょっと頬が赤いぞご主人!
「どっか寄って来たの?」
「ほら、季節モノの買い物をね」
「ふーん……そろそろメシ食わん?」
「うん!」
お互いにコンビニで買ってきたお弁当を広げて食べ始めたと。
こちらは家に帰った小夜ちゃんの様子。
「皮肉だよなー、お姉ちゃんは夜にならないと会えなくてあたしは昼間じゃないと好きなひとに会えないんだもんなあ」
「小夜ーっ! 買ってきたんならさっさと冷蔵庫に入れちゃいなさいっ!」
「はぁぁい」
ほら、ぼやっとそんなこと思ってるからお母さんに叱られた。
以下ちょっと説明が必要なので、それに行を割かせてもらいますが、この姉妹は2人とも女子校に通ってます。『芙蓉学園』という名前の、大学までくっついている女子校。
ところが真美ちゃんは、看護師になりたいという夢が、中学入学でこの学校に入った後に出来まして、でも、この学校の大学には看護科もついていないし、理数系の教育にも少し不熱心な感じ。だから、高校をも少しレベルの高い学校にすると考えて塾に通いだして、先ほどの彼を好きになってしまったわけですわ。
2人が通っている芙蓉学園では本来、生徒が携帯電話を所持することにいい顔をしていないのですが、小夜ちゃんが中学生になった去年の春、このおうちに出たネズミに電話線を食いちぎられて通じなくなった際に、臨時で持った携帯電話がそのまま使われている格好です。真美ちゃんは塾で帰りが遅いし、小夜ちゃんも部活があって帰りは早くないからね。
その小夜ちゃんはというと。
学校の漫研の先輩を好きなんですわ。
芙蓉学園は、女の子同士でお付き合いするのが、同級生でも先輩後輩でも、「多くはないけど珍しくもない」のだそうで(他所の学校に彼氏がいる子よりは若干多いらしいけど)。
だから、複雑なようです。
♪ぴっぴっぱっぽっ ぴぴっぴぱっぽっ
近くで聞く僕には、手を動かせたらそれを使って耳を塞ぎたい音量で鳴るメールの着信ですわ。シーズンなナンバーのイントロです。
ご主人はすっ飛んできて、携帯を開けて(僕は彼女の手に吹っ飛ばされました苦笑)。
おお、笑顔です。
可愛いなあ……。
こちら青さんです(笑)。
塾から一緒に帰っております。
うちのご主人の片想いの彼は、この塾まで電車で通っているし、ご主人や僕の家までだって駅からバスに乗らなきゃいけないので、駅までふたりで帰るわけです。
♪計算する女の子
期待してる男の子
ときめいてる女の子
気にしないふり男の子
流れてきましたよ。
僕らだってご主人のお供でさんざん街中で聞いて知っている、今月最も流れまくった曲が。
さあ、彼はどう出るかな。
おや?
歩くのが早くなりましたよ?(笑)
「待ってー!」
ご主人は追いつくのが大変です。彼は中3にしてはけっこう身長がある子なので、157センチの真美ちゃんとは、けっこう違います。オマケに男女では、もともと歩くスピードが違うしね。
「寒いからさ」
「言ってよぉー!」
「悪ィ」
ご主人は悲しそうな顔になっちゃいました。
「じゃあ、また、明日な」
彼はさっさと自動改札でタッチあんどゴーして消えてしまいました。
「というわけなの」
「愚痴られてもねえ……」
妹の想い人にして姉の恋の愚痴聞き役、というのはなんて入り組んだ関係なんでしょう、と妹の小夜ちゃん(ここからまたピンクさんに移りましたすみません)は思い、わかっている真美ちゃんはすまなく思いながら、桜ちゃんに話している昼休みの漫研の部室だったりする。
「透子先輩、どう思います?」
お兄さん2人・弟1人・彼氏1人、と、漫研の中ではいちばん、身近なところに年の近い男性が多い、ということで相談役になることが多い高校1年の透子サンに桜ちゃんは丸投げする格好である。
「本当に寒かったからとか、他に早く電車に乗りたい理由が出来たとか……で、流れてきた曲が『チョコレイト・ディスコ』だって?」
「そうなんです」
真美ちゃんはしおれている。
「照れくさくって逃げたというセンもありうるよね」
「そうですか……」
「まったく、小夜ちゃんのお姉ちゃんだからしょうがないけど、部員じゃない子の恋愛相談にまで普通は乗らんのよ? アタシ」
「相談持ち込む部員はそもそもいないじゃないですか」
「すみません」
「本当にすみません……」
本格的にしおれてしまった真美ちゃんだけでなく、彼女より早くご主人も謝罪の文句を口にした。
「いーのいーの、小夜ちゃん可愛いからね」
言って透子サンはご主人を自分のほうに引き寄せる。
「透子センパイ?」
『おおっ、桜サン先輩を睨んでますよっ』
『青さん興奮しない』
桜さんも黙ってなくって、センパイを睨みつつ、ご主人を自分に引き寄せ返す。
「彼氏いるのに油断も隙もない……」
ボソッと言うのが聞こえたのはどうやら僕だけでないようで、
『やったっ! 小夜ちゃんサクラサクよ!』
と青さんは興奮が抜けてなかったし、真美ちゃんは意味ありげに、妹に笑顔で目配せをしていた。送られた実妹であるご主人は、きょとんとした顔をしてたけど。
2月11日、祝日の午後を、2人はチョコつくりにあてた。お母さんも入って。
二人ともトリュフにして、いっぱいつくって、形のいい子をセレクトしてプレゼント、という手段に出た。
出来は……姉の真美ちゃんの方が、2年の長か、良かったようです。
当日14日、授業が終わった22時。
塾からの帰り道。
ご主人(ここでは真美ちゃんね。つまり僕は青さんです)は、駅と反対方向に歩き出した。
「おいっ、どこ行くんだよこんな時間に!」
「ちょっと……いいかな?」
上目使いになるご主人。
彼は無言で頷いた。
誰もいない夜の公園に入っていく。
「初めて来るな……」
と彼がつぶやいた途端、ご主人がくるっと振り返った。
「わっ!」
びっくりする彼の目の前の、ご主人の手には、蒼のリボンのチョコレイト。
「は、初めて手作りしたのっ……そ、それでっ……」
「なんか、そんな気がしてた」
「えっ?」
いったいどうなるんだろうと、ご主人の恋の行方が決まるこの瞬間は一言足りとも聞き逃せない携帯ストラップ。
「いつの間にか、有村といるの楽しくなって、もっと一緒にいたいと思ったんだ」
「じゃあ、なんでこの間……」
「自分の気持ちを見透かしたような歌詞の歌が流れてる場所に平気な顔でいれるわけないだろ」
「それって……」
「有村のチョコレイト、本気で欲しかった。このチョコレイト、もっと一緒にいたいってことだよな?」
「うん、大好きっ!」
うわ、闇夜でもわかるほど赤くなってるよご主人。
「じゃあ志望校このまま片町高校で変えないでいいんだよね?」
「うん」
「受験終わったらデートしようぜ」
「うっ……」
わ、ご主人泣いてる?
彼もわたわたし始めた。
時間戻ってここは、当日16時の芙蓉学園。
今日は「6年生(高校3年生)を送る会」で出す冊子の、原稿のネームの最終チェック日ともなっていた(バレンタインが土曜日とかぶったのでほとんどの部活動が活動日に持ってきたらしい笑)。
部員全員が、ご主人(小夜ちゃん)と桜サンに部室の片付けを任せて、先に帰ってしまった。足が速かったのは、予定があるからだけではナイ。
「もうすぐ小夜ちゃんが入ってきて1年経つねえ」
「そうですね」
「片付けるのすっかり慣れたよね」
「トーン棚と1年生用の棚の片付け終わりました」
大好きなはずの先輩に背中を向けたまま報告をするご主人。携帯電話ごとスカートのポケットに入っている僕には、体中が緊張しているのが伝わってくる。
「小夜ちゃん」
いつもよりやや低めのトーンの桜さんの声に、ご主人は緊張して振り返った。
「な、なんですか先輩」
「なんか今日そわそわしてたけど」
「だって今日はみんなそうじゃないですか」
ご主人、既に顔があっぷあっぷ。
じっとご主人を見つめる桜さん。
「センパイ……」
ご主人が持っているのは、赤いリボンのチョコレイト。
「ありがとう。大好きよ」
「センパイ……」
「ほらほら泣かないの。
もうちゃんで呼ぶのやめるからね。早くそうしたかったんだから。今からコイビトだからね、あたしたち」
「はいっ」
小柄な桜サンは、一所懸命工夫しながら、165センチ近くあるご主人の頭を撫でていた。