「ざれごと寝言大事なこと」日記#6

西山香葉子という同人者の本性がわかる? ぺーじです。

*[自作小説][百合]ふたりで同じ夢を見よう

私が主宰した作品集・『少女十色』に掲載した作品です。学園が舞台で漫才コンビもの。「相方」っていいよね。まあ、漫才コンビの百合って、ナマモノでもどの程度あるのか。これ書いた2009年(!)から比べると少しは増えているのかな?
web拍手には、この作品にも出てるコンビが出てます。そっちのコンビは続編書き始めてますが、進まないんですよ。何か燃料ないかしら。
メガネの理恵のビジュアルのヒントは、実在の女性漫才師です。ロングヘアの未央の方は、なんとなく浮かんだのかな? 
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「もうやってられへんわ、あんたとは!」
 バターン!
 上の方から派手な音が聞こえて、談話室のインターネットスペースで調べ物をしていた芙蓉学園中高等部現新聞部副部長・田中亜矢が、「聞こえるけど遠いから3階か?」などと思った直後。
 ダダダダダッ!
 その談話室に、大きな足音を立てて、小山未央が飛び込んできた。
「じゃかしい! 山P見よるんじゃけ、邪魔しんさんなや!」
 と、寮内唯一のテレビの前から、未央に負けない大声で広島弁が轟いた。
「見てるんなら集中しなさいよ、ストーリーわからなくなるよ」
 広島弁で怒鳴った者のことは、右記した台詞で、隣で同じくテレビを見ていた者が諫めに廻る。未央と同じ高2の田中亜矢は、未央に近寄って行き、「どしたの、みおたん」と、ひとこと声をかけてみた。
 関西を含む西日本出身者たちが、お国訛り丸出しで怒鳴り合うと、怖がって下級生達が近寄らないので、高2にもなるとそのあたりの知恵はついているのだ。
 事実、談話室にいた、中学生と思しき幼い顔ぶれは、テレビの前にも未央のそばにも近寄れない。
 
「理恵のせいや
「みおたん」と呼ばれた小山未央は、面白くなさそうにふくれた顔と投げやりな口調で、亜矢に対した。
「おいおい、『りえたんみおたん』解散の危機じゃないよね?」
 亜矢にとっては、自分の部活動にもかかわってくるので、そちらの観点でも心配する。
 小山未央と畑中理恵は、共に芙蓉学園落語研究会に所属して「りえたんみおたん」という名で漫才コンビを組んでいる。学園内の各種イベントに引っ張りだこな彼女たちが解散となれば、号外モノの大ニュースだ。
「知らん。あんなん勝手にしたらええねん」
「穏やかじゃないなあ。
 あの大声だと寮管が入って一時引越しモノだよ、多分」
「のぞむところやわ。ウチ怒ってんねん」
 学祭前に嵐が来たなー……、と思った亜矢は、自分やルームメイトに、部屋交換指令が出ないことを、まず祈った。

 結局、亜矢の予想が当たって、寮管命令で3日だけ、部屋の交換を命じられた。
 亜矢のルームメイトで親友でもある生徒会会計・狭山結花が、未央と部屋を交換することになり、本来は未央と理恵の部屋である307号室に枕を持って現れた。
「りえたん、元気?」
この部屋に残された理恵は、ベッドに寝転んだ状態で、
「今よっつ」
と言って出迎える。
「みおたんの椅子はこっち?」
「そー」
 結花は、勉強机の背もたれを前にして座るという、あまりお行儀のよろしくない座り方で、理恵にちょこちょこ話しかけていたが、まともな返答がないので、
「あんたやっぱり亜矢ちゃんじゃないからなー。なんでそんなに痩せてんの」
 と、理恵のコンプレックスをつつくことにした。
「人、気にしとるんつついてまで釣りたいん?」
 理恵は、言いながら、長身の結花を、上目遣いでじろりと睨んだ。結花の思うツボだということに、気がついてはいるのだが。
 言い返した理恵は、痩せていて、メガネをかけた少女である。ストレートな髪を、長くはないが短いとは言い切れない、それでいて少年っぽく見える髪型にしていた。20世紀中はたまに、こういう髪型にする女性ロックシンガーがいたが。
 水着を着せると目立つナイスバディと、ストレートの長い髪の持ち主な未央とは、対照的である。
 そして漫才の内容はけっこう喧嘩腰。
「どうしたのよ、『りえたんみおたん』のりえたんともあろう者が」
 透子が把握している限りじゃ、あんた達をネタにしてショートショートを回覧したり漫画描いたりしている奴らは相当多いという話だよ、と結花は続ける。
 透子とは、亜矢と結花の親友にして、漫画研究部の井沢透子のことだ。
 彼女はそういった話題には目を光らせていて、新聞部の亜矢や生徒会執行部にいる結花とはまた、別のベクトルで情報通である。
 芙蓉学園は、女生徒同士のカップルもけっこうな数がいることに加え、こういう、漫才や、テニスや卓球の名物ダブルス・コンビ等を(実際に付き合ってはいないが)元に妄想し、表現活動する生徒もいる、という学校である。
「新歓の新入生の人気は『ヴァイオラ』に持ってかれてるしねえ」
「あの2人、あの美少女っぷりで落研にいるねん、ある意味芙蓉版オセロとちゃうか思うわ」
「あの子たちはなー、コンビ名まで綺麗なくせに、女子校でやれるギリギリの笑い取るからねえ……」
 この2人もテレビでよく姿を見る、お笑い界屈指の美女コンビの名を引き合いに出しながら、3学年下の有望株たちを語り始めた。
 批判精神のあるコンビだからか、揃って成績優秀らしい。
「あれを笑えてるなら、1年生はまあ大丈夫だよね」
「今中2の子たちには、乙女ちっくなあんたの追っかけ、多いもんな」
「それは言わないで欲しいなあ……亜矢ちゃんに申し訳なくって……」
「あんた、亜矢ちゃん好きやもんなぁ」
 理恵は同情してみせた瞬間、
「うん、大好き。だから早く帰らせろ。頭冷やしやがれ」
 とものすごい言葉遣いで切り返されてしまったので、
「ゴメンな」
 と言いつつ、むくれている。
 同情したことさえも後悔しているのが見える。
 ルームメイトで喧嘩をすると、どちらかが同じ学年の者と一時的に部屋を交換し(通常は3日間)、頭を冷やして、きちんと話せるように持っていく、というのが寮管采配によるルールとなっている。寮内に影響を与える大騒ぎになりかけた時のみだが。
「……なにがあったのさ」
「ネタの話やねんけどな。斬新なんやりたいアタシと、それについてくんが精一杯の未央、ってゆうたらええかな」
「それは私達には何も言えないな。戦略上の問題?」
「そういうことやねん。そやし下から突き上げられてるやん。しかも、あの子らは、可愛い」
 このガッコ、たまに、美人ってことで損したから女子校がいいゆうて入ってくるのがいるけど……などと言っている。そう言いながら理恵は、首や右腕、右肩を廻した。
「なに、肩凝ってるの? 理由はそれ?」
「そういうことにしといて。お茶入れたる」
 2人はしばらく、無言で温かい紅茶を飲んでいたが。
「あたし、ふっと思ったんだけどさあ。あんた、プロになる気?」
「ん……未央とプロになりたい、おもてるねん」
「あんた、みおたんにそれをちゃんと言った?」
「……」
「お互いに頭が冷えたらその辺ちゃんと話してみな?」
「そやね……」
 理恵はそれからしばらく、イヤフォンを両耳にあてていたが、結花より先に「おやすみ」と言った。

 同時刻。本来亜矢と結花が住む320号室には、結花とトレードで未央が来ている。
 亜矢も、未央たち同様遠くから出てきているので、ふたりにとっては、そのあたりが育んだ親近感があり、一時的な同居人にはもってこいな人選だった。
 亜矢のベッドに腰かける未央を横目でチラチラ見ながら、机に向かって勉強をする亜矢。
 30分ほどの沈黙の後で、未央がつぶやいた。
「理恵は最近、今までと違うネタやりたがってるねん……」
 亜矢は、未央の隣に移動してきてから、
「みおたん切り替え苦手だからね……」
 と返す。
「ウチ、今、あいつがなに考えてるかわからん……」
「それでキレちゃったんだ?」
「……」
 俯いた未央の頭を、亜矢は黙ってなでていた。

 それは、4年と少し前の、街がバレンタインセールで華やいでいる時期、場所は芙蓉学園中等部1年生の教室。
「あんたも関西から来たん?」
「そやけど……、あんたも?」
 中学の入学試験、1科目終わった休み時間。
 前後ろに座る、12歳だった頃のの理恵と未央。
「あんた最初に先生に質問してたやん、その時にそうかな、っておもたん」
「そうなんや、やっぱりわかるねんな?」
「わかるよ。
 なんやみんな、違う言葉使こうてて、外国にいるみたいやな」
「ホンマやねぇ……」
「せやけど、次終わったら試験終わりやし、頑張ろな?」
「そやな!」
 未央は、今回故郷と両親のそばを離れてから初めて、思い切り笑うことができた。

 そして入寮日。
 やはりアクセントの違いで目立っていた理恵を未央が見つけて、めでたく再会できたふたりは、すぐ仲良くなった。隣同士の街の出身だったのだ。
 やがて、彼女たちの会話を、クラスメイトたちが面白がり始め、それが1年生から先輩へ、先輩からさらに上級生へと、女子校特有の伝播力で上級生に伝わっていき。
 部活見学週間が3分の1ほど過ぎた時期に、落語研究会がふたりをスカウトしに来た。
 なかなか馴染みきれない関東の学校で心細かった分、「ふたりで」というのは大きかった。
 こうして、今の、漫才コンビなふたりがいる。

 ネタつくりは大変だけど、話し合ってるとケミストリーするのんか、すごく面白い方向に転がってくんよね。

 翌日。307号室で。亜矢と結花が立ち合って。
「アタシはあんたと、プロになりたい」
「りえたんみおたん」解散か継続か、と亜矢などは、当初ハラハラしていたが、理恵のこの決意表明は、ふたりはもう大丈夫、と、亜矢と結花の他、様々な面々を安心させた。

「アタシはプロでやりたなったから、もっといろんなところから、ネタぁ引っ張ってきて試してみたいねん」
「ウチら、卒業しても一緒におるなら、それが一番いいもんな。これからはプロになることも考えていくわ」
 とても久しぶりな感覚でふたりは、お互いの顔を見て、頷き合った。