「ざれごと寝言大事なこと」日記#6

西山香葉子という同人者の本性がわかる? ぺーじです。

「グリーンドリーム」

昨年5月にコミティア「百合部」で頒布された同人誌に載せていただいたショートストーリーです。指定されたお題は「はたらくおねえさん」。この頃はまだ 、学園もの1本も発表してなかったから廻ってきたのかなあ(笑)。
タイトルは「グリーンドリーム」という、どういうジェンダーカップルでも色気なさそうだなというタイトルでした(汗)。メイン2人が勤務している会社の名前です。タイトルに困って苦肉の策ですよw
というわけで、苦手な方は回れ右推奨デス。


 狭いオフィスにカタカタカタとキーボードを叩く音がする。
 隣ではプリンターが、B6横くらいの大きさごとに切り取り線がある連帳で、伝票を吐き出し続けてる。
 わたしは目の前に、3年前にアウトソーシングのシステム設計担当者がつくった、発注伝票入力画面の映ったディスプレイを睨みつけて、キーボードを打ち続ける。
 ここはユニフォーム制作会社「グリーンドリーム」。
 やや蛍光気味の、パステルカラーで薄くて軽い素材のスタジアムジャンパーが、最近上昇気流に乗ってきている新進の小さい会社。
「ただいまー」
「代表おかえりなさい」
 この会社はツートップで。とある今はもうない会社でトップ営業だったふたりが組んで独立したんだとか。このふたり、なんでも不倫の関係だとかみんな言っている。『代表』と呼ばれている、女性の平野さんは、華やかだけど貫禄があって、とっても年齢不詳。


 午後5時。
 さあ、あと1時間というところで。
「ただいまー」
「おかえりなさい!」
 麗子先輩が帰ってきた。わたしはお茶を淹れようと腰を浮かしかけるが、
「いいから。今日は締め切りなんだから伝票をやっつけることを最優先で考えなさい?」
 と先輩に言われて、椅子に座りなおして、もう1回ディスプレイを睨む。


 わたしは4月に、短大を卒業まもなく入社したばかりの新入社員で、名前を秋月佳奈。「グリーンドリーム」唯一の事務員。
 山内麗子先輩は、わたしが入社するまで事務を担当していたらしいけど、すっかり営業担当として顧客周りも板についてしまっている。華のある綺麗な、わたしよりけっこう年齢は上の女性。
 肩を何センチか出たストレートの髪に、仕立ての良さそうなスカートのスーツがよくお似合いだ。
 不倫カップルな社長コンビと一緒に独立した唯一の社員なんだそうだ(当社のオリジナル・メンバーってことね)。
 今日はインターネット経由で発注された、ミニコミの即売会の実行委員会と、ダンスイベントの主催グループに会ってきたとのこと。
 その麗子先輩が、
「秋月さん、よろしくね」
 と言って、ばさっと伝票のひと塊をデスクに置いた。
 うっ、とわたしは思う。
 12枚か……。
 今からやると……しかも今日は月末の〆日だから明日に丸投げできない。
 どうすべ……。
 ふとすぐそばに麗子先輩!?
 うわああああ!
 実はこのひとは今のわたしの恋人だったりするのだが、たまにこういうことをするので心底ドキッとする。
「今から1時間で終わらせたら『アモー』のコース、おごるわよ?」
 と彼女はわたしの耳元に囁いた。更に。
「その後はねえ、どうしてあげようかなあ……」
「はいっ! 頑張ります!」
「声大きいわよ」
 言い捨てて麗子先輩は、右手首に黒いゴムをはめた状態で給湯室へ消える。


 午後6時45分、わたしと麗子先輩は、ボートハウスを改造してつくられたキレイなロケーションのイタリアンレストランにいた。店の名前の「アモー」はイタリア語で「愛」を意味するらしいので、麗子先輩と来るとなおさらどきどきする。伝票の入力は、15分ほどオーバーしたが終わらせることができた(残業手当は30分単位でないとつかないから、残念だけど、麗子先輩とディナーだもん、いいか)。
 おいしいカルボナーラをいただきながら。
「佳奈ちゃんがものを食べてるところ見るのだーい好き」
 と言いながら微笑む先輩にうっとりしてしまう。
「後でたくさん可愛がってあげるから」
 麗子先輩と出会うまでろくに大人の世界を知らなかったわたしには、この手の台詞は未だにドキドキするなあ。
 髪をまとめているのでスッキリしたフェイスラインが際立って。なおさらキレイ。
 すると、先輩の手が、わたしの頬に……。
「かわいい……」
「せ、せんぱい、たべにくいでしゅ……」
 言葉がおかしくなってしまった。
 わたしは髪をかなり短くしているので(「LOVE MY LIFE」という漫画のいちこみたいな感じと言えば伝わるかな? これは就職活動で苦労する元ではあった)、薄くファンデを塗った頬に先輩の手が直接当たる。
「すっかり仕事に慣れたよねえ……」
「先輩トリップしないで!」
 叫んだとたん先輩の手がわたしの顔をとらえた。
 扉を開けるとカップルの喧騒。
 そんな扉の内側では、ちっちゃいわたしと髪の長い先輩が、キス。
「食べたらわたしたちのお城へ帰ろう」
 うん。
 誰も邪魔しない、ふたりだけのお城で。
 わたしたちは甘い夢を貪るのだ。

                     FIN



これ、後日、前日譚と後日譚と、両方書いてみたいんですよね。
イメージしているものを書こうとしたら、取材に行って、雰囲気は掴んでおかねばならないのですが。
書きたいとここで言っておこうと思います。
年内には本拠地に移動させると思いますが。
いざ前日譚を書き始めたら辻褄合わせが大変かもしれないけど。