「肩はこるし腰は痛いし目はすぐ疲れるし……」
ご主人が、左手で右肩をもみながら訴える。
言うとおり、すっかり太ってがっくり老けた。
まあ、15歳から50歳まで一緒だもんね、僕は。
僕はわにのぬいぐるみで、ご主人が高校1年のとき初めての彼氏に買ってもらったものだ。
僕と一緒に22歳でお嫁に来たとき、お姑さんは僕を邪魔そうにしていた。
そのうち、ご主人は「よくできた嫁」だという評価をもらうようになった。聞いたことはきちんと覚えて実行するからちょっと悔しいんだって。
そんなご主人ももう50歳。
娘さんもお嫁に行って、先週お姑さんを看取って。
「温泉にでも行こうか」
旦那さんが言った。
「うん」
ご主人の笑顔に、若いころの面影が見えた。
割烹着姿でご主人はお茶を注ぎなおす。
こんな田舎でも、若い人はまず着なくなった割烹着で。